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感動と時間を提供する宿 / ホトリニテ店主 高村直喜さん

乙女湖が目の前の小さな宿


国内にある多目的ダムの中で最も標高の高い1500mに位置し、秩父山系から流れ出る一級河川・琴川ダム、通称乙女湖。

乙女湖までの道のりは、最寄り駅中央線塩山駅から車でひたすら登っていき、トンネルを抜けさらに20分程クリスタルラインを登っていくのですが、私が宿に向かったその日は霧の中で、本当にこの先にお宿が存在するのか不安になる深い自然に包まれていました。

山梨の盆地地形ならではの市街地を一望できる景色を抜けた先に、

人間の手の及ばない、自然の持つまるで神聖な山の中に飲み込まれていくような感覚に陥ります。

山深い保安林のさらに辺境の地にひっそりと佇む小さな宿がありました。「ホトリニテ」。




ホトリニテの宿主「高村直喜さん」との出会い

高村さんのお噂はかねがね聞いていました。

現在の前身である「ホトリニテ山中湖」ではBooking.comで世界2位の輝かしい実績を持っていたにもかかわらず2018年12月30日閉業。

その後2020年に限界集落とよばれる山梨市牧丘町の乙女湖でホトリニテを再開しました。

これだけ評価されていた宿にもかかわらず、突然の閉業、そして現在のホトリニテを再開した後もメディアにほとんど出られていませんでした。

その一風変わった経営方法、また私自身が高村さんの考えに触れたいという思いから、取材の申込をさせていただいたところ、快諾頂くことができました。


高村直喜さん。山梨県山中湖村出身。

現在は、「ホトリニテ」のある山梨市牧丘町に住み、奥様と息子さんの3人で暮らしています。

集落には、高村さんの他に3組の家族が暮らしていますが、冬場は宿近くのゲートが封鎖され、宿関係者もしくは県の関係者のみが通行することができるといいます。




このような辺境地で、なぜ宿をはじめようと思ったのか。

そこには、ここでなきゃいけなかった理由、運命的な出会いがありました。


ホトリニテ山中湖時代

ホトリニテを始めたきっかけは「なりゆき」だったといいます。

以前は東京でクラブDJをしていたという高村さん。

「人と出会う仕事がしたい」という思いから、

ご実家の宿を引き継ぎホトリニテをスタートさせました。


「ホトリニテ」山中湖時代は、自らイベントを主催し、様々なメディアに取り上げられてきました。当時はそれが山中湖の「地域活性化」につながると考えてきました。

しかし、結果は高村さんの望むかたちではありませんでした。

「本当に地域は活性化したのか、答えは何も変わらなかったんです。」


「人に評価される仕事から人が評価できない仕事へ」

「僕が魅力的な人間になることで、山梨の辺境地にちょっと変わった店主がいるから会いに行こうとする人が増えて、そこで山梨の良さを知ってくれたらいいなと思う。」

高村さん自身、「地域活性化」についてずっと向き合い続けて行きついた答えでした。



山中湖のホトリニテを2018年に閉業し、次の拠点となる地を全国規模で探していた高村さんですが、乙女湖の物件を見たときこれだ、と思い決めたといいます。


「ここ乙女湖で人から評価されない仕事がしたい。それはすなわち人が評価できないということだと思うんです。」

過去に様々な実績を残す高村さんですが、何かと比べられて得る評価ではなく、「ホトリニテ」そのものを見て感じてほしい。

それはホトリニテと比べる対象がなく、そこでしかできない体験にこだわる高村さんならではの答えであると思いました。


「過疎地や人口の少ない村がなくなることを、無理して行政が手を加える。僕は、それをする必要はないんじゃないかなと思うんですよ。」


「その場所が本当に美しかったら、必ず人は戻ってくると思う。」




ホトリニテのおもてなしは”他ではできない体験”にあります。

ホトリニテでは、まず地域を知っていただくために、地元の食材をつかった食事を提供し、地域に根付いている文化、伝承を高村さんがガイドをしながら案内してくれます。

お客様からは、今まで知らなかった体験ができていい記念になりましたというお言葉をいただけるそうです。様々な宿を見て経験を積んだからこそ、ここでしかできない体験を提供することには自信がありますとおっしゃっていました。

また、高村さんとお話させていただいた時間も言葉では表せないような素敵な時間でした。



山梨の外側の部分ではなく、中身の部分を知ってもらいたい。

教科書に載っているような観光資源ではなくて、

そこにいる”人“や、”文化“、”景色”など、その地域にしかないものを感じてほしい。


人間の根本にある「誰かのために何かしてあげたい」「自分が感じた魅力を共有したい」という純粋な想いこそが、人に感動を与えてくれます。

ホトリニテでは、モノとお金のやり取りではなく、目に見えない、言葉にすると崩れてしまうような感動や時間を提供しています。


写真提供:ホトリニテ 高村直喜様

文:名取 花



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